フランス語学習者に対する
アプローチに共感

フランス在住 現役通訳・翻訳家 山本彩香さん(40歳)
大学で始めたフランス語

私がフランス語の学習を始めたのは今から20年ほど前、大学に入学した時です。第二外国語の選択でドイツ語とフランス語で迷っていた私は、「女の子だったら絶対発音のきれいなフランス語!(今考えると“女の子だったら”という理由がよくわからないのですが)」という叔母の言葉で、特に理由を考えるまでもなくフランス語を選びました。
英語に少し苦手意識のあった私は、フランス語の最初の授業を心待ちにしていました。英語ではすでに他の学生と差が付いているけれど(帰国子女や留学経験者の多い大学に在籍していました)、フランス語なら皆スタートは同じ。がんばり次第では優秀な成績が収められるかも、という淡い期待を抱いていました。しかし、フランス語の授業に出席してみて、まず感じたのは絶望感でした。 フランス語の発音が美しいのは、それがフランス人の口から発せられた時のみ。私たちがいくら真似をしようとしても、フランス語の音からは程遠いものでした。そして、文法のなんと難しいこと。
今考えれば難しいというより、ただ最初に覚えなければいけない規則が多いだけなのですが、「暑い」や「お腹がすいた」などの日本語ならごく簡単なフレーズも、フランス語では必ず「主語+活用した動詞」といった構造に従って文章を組み立てる必要があります。しかも日常に使う基本的な動詞avoirやêtreは、その複雑な活用をマスターしないことには文章が作れないのです。私の大学1年生のフランス語は、動詞の活用表や文法書を見ながら、ひたすら宿題を解くだけで、フランス語の美しさを堪能したり、会話することによる楽しさを感じることなど全くありませんでした。

アテネフランセに通い

大学1回生で現在形から接続法まで、ありとあらゆる文法事項を習得しました。勿論、フランス語をしゃべることなど全く出来ませんでしたが、フランス語の全体像が見えてきました。そして2回生の時のフランス語の先生は、フランス語習得にはまずフランス文化を知ってフランスに興味を抱くことだと説き、授業で時々フランス映画を見せてくれました。
当時アメリカ映画に慣れきっていた私は、フランス映画のどこがよいのかさっぱりわかりませんでしたが、そこから何か不思議な空気のようなものを感じ取りました。外国といえばアメリカ、であった私の中に、別の世界が生まれたのです。フランスという国をもっと知りたい、フランス語を勉強してフランス人と話してみたいという気持ちがますます高まりました。そこで真のフランス語を学ぼうと、アテネフランセというフランス語のフランス語の語学学校に通うことにしました。ここでは、全くの初心者クラスを除いては、フランス人の先生がフランス語だけで授業を行っていました。
演習問題では、先生がどんどん生徒をフランス語で当てていくので、毎回どきどきはらはら。そして質問があってもクラスでは日本語が禁止されていたので、知っている単語を組み立てて質問しなければなりません。クラスメートも一緒になって、下手なりに一生懸命文章を作り質問しました。先生に通じた時はクラス全体が満足感に溢れました。
これこそが語学習得に必要なアプローチだとわかって、フランス語のこのスリルある授業を毎週楽しみにしていました。そして私は、最初週1回だったアテネフランセでの授業も週に2回にし、長期休暇には週に3,4日通うという没頭ぶりでした。フランス語への情熱はさらに高まり、電車の中でもお風呂の中でも、「これはフランス語ではなんというのだろう?」と常にフランス語で考えていました。どこに行くにもかばんの中にはフランス語の辞書。私の辞書は手垢で真っ黒で、友達からいつも笑われたものです。まさに私は「フランス語オタク」となっていました。

フランス語を使う仕事をしたい〜留学〜

そして大学卒業後は大学院への進級も考えましたが、まずは社会に出たほうがよいと考え、貿易会社に就職しました。この貿易会社ではアメリカとカナダと取引があり、英語とフランス語の両方を使う機会がありました。今考えるとカナダのフランス語はフランスのフランス語とかなり違うのですが、出張した際にフランス語が使えることが何よりもうれしかったのを覚えています。しかし、出張や残業などが多く、アテネフランセにはもう通うことができず、時間に融通の効く個人授業などでフランス語の勉強をしていました。しかし仕事をしていてもフランスへの思いは増すばかり。フランス語をメインに使う仕事がしたい、フランス語の通訳になりたいとの気持ちが固まり、3年働いてお金を貯め、ついにフランスに留学しました。
日本を経つ前、日本のフランス人の先生たちに「君ほどしゃべれれば問題ない」といわれるほどにフランス語力が伸びていた私でしたが、フランスに着いてからはやはりわからないことだらけで苦労しました。留学の1,2年目はフランス人学生と同居していたのですが(フランスでは、ひとつのアパートを複数の学生で借りるということがよくあります)、最初は彼らの言っていることの半分しかわかりませんでした。しかし、今考えたら私が彼らの言うことを半分しか理解できなかったのは、語学力が不足していたからだけではありません。ただ単に彼らと“共有した文化や日常”を持っていないから、わからないことだらけだったのです。
しかし、彼らと日常を共にしていくとしだいに、日本で固めた基礎力のおかげもあって、私のフランス語はどんどん伸びました。特に地方都市に留学していたので、日本人も少なく毎日フランス語漬けでした。日本や日本語が恋しくなることもなく、毎日フランス語だけの世界で楽しく時を過ごしました。地方都市での2年の留学経験を経て、たまたま通訳の仕事をする機会にも恵まれました。フランス語の通訳としての初仕事は難しくもありましたが、とてもよい経験になりました。その後、パリで1年過ごした後、まだまだ帰りたくなかったフランスでしたが、永久に学生を続けるわけにもいかず、そしてもう一度自国の文化を見直したいとの思いから日本に帰ることにしました。ちょうどその時、服飾専門学校でフランス語の通訳を募集しており、運よく採用された私は念願の夢、フランス語を使った仕事を手にしたのでした。

クラス中にため息が漏れ〜フランス語講師として〜

私が勤務することになった服飾専門学校では、フランス人教師の通訳として採用されたのですが、留学クラスのフランス語の授業も講師として担当することになりました。生徒たちは大部分が高校を卒業したばかりの若者たちで、フランス語はあくまでもモードを学ぶための手段。フランスとフランス語を心から愛し、フランス語と触れているだけで幸せだった自分とは状況が異なります。いかに彼らの興味を失わせないかが私の課題となりました。1年後の留学を控え、彼らはフランス語に興味もモチベーションも持っていました。
しかし、男性名詞や女性名詞、冠詞や動詞の活用などのフランス語の複雑な規則に悲鳴を上げ始めました。「先生、文法はもういいから、会話やって!」と言われるものの、全く文法無視では会話さえできません。そこで、「完全に覚えなくてもいいから、ちょっと頭の隅に置いて!」といいながら、最低限の文法事項に触れることにしました。私はこの時期、フランス語のさまざまな参考書や文法書を見ました。どれも体系的に説明されていてすばらしいものが多かったのですが、とにかくフランス語の規則が事細かにぎっしりと詰まっていました。フランス語が専門の大学生なら、こうしたフランスの文法事項を全て勉強する必要があるでしょう。
もちろん、フランス語を学びたいという人なら、文法について詳しく学んでも決して損にはなりません。ただ、かなり強い意志と目標がないと続けるのは困難です。 特に学生が苦手意識を持ったのは動詞の活用と形容詞の性別の一致でした。私が新しい動詞に触れるたびに、クラス中にため息が漏れました。学生たちは、「先生、活用しないで通じる方法とかないんですか!」と無理なことまで言ったものです。ある程度理解できるフランス語を話すのに、活用は必須です。活用を無視することはできません。ですが、彼らの負担を取り除くために、最低主語のjeと二人称複数のvousの活用だけを教え、その綴りには触れませんでした。
しかし、章が進むにつれて難度もあがり、モチベーションも低下していった学生たち。複合過去、半過去、未来、条件法、接続法と進むにつれ、そしてその都度活用の規則を説明するにつれ、彼らの表情は曇りました。私はフランスでの留学時代のエピソードを交えながら、そしてフランス人、フランスについて私が見てきたことを語りながら、楽しい授業を目指し、最低限のフランス語文法を教えました。フランス語は確かに覚えることが多いですが、規則を覚えてしまったら後は英語より簡単な部分もあります。とにかく最初の1~2年、その複雑そうに見える文法と戦えば、フランス語がなんとかしゃべれるようになるんだ、ということを伝えてきました。
フランス語教師にとって、フランス語を初心者に教える際の課題は、フランス語に対する苦手意識と、フランス語が難しい言語である先入観を取り除くことに尽きるでしょう。ちなみに私がフランス語を教えていた学生たちの数人と、数年後に会う機会がありました。フランスでフランス人の学生と一緒にモードを学び、フランス語もなんとかしゃべれるようになっていて、ぐっと大人びていました。ある学生は、クラスのフランス人学生にいつも助けられていた、といっていました。彼女がクラスでプレゼンテーションをする時、あがってしまってフランス語がうまく出てこない!とパニックに陥った時も、クラスメートがこっそり教えてくれたりしたそうです。そして発表が終わった時にはクラス全員から大喝采。「先生、私はクラスのみんなのおかげで卒業しました」と言っていました。フランス人はどうしても冷たい印象がありますが、実際は何人でも同じ。冷たい人も心の広い人もいるのですね。私は自分が教えてきた学生がフランス人と対等にモードを学び、フランスでその後も活動していることを誇らしく思っています。

「松平式フランス語のおぼえ方」を読んでみて

服飾専門学校の3年の勤務を終え、再びフランスに戻り、現在はフランスの地方都市に在住しています。クラスでフランス語を教えることはありませんが、留学生のフランス語の質問に答えるなど、時々サポートを行っています。フランス語を教える立場から、この教材の長所を以下にまとめてみました。

(1)構成がよい
今回この松平式フランス語教材を読んでみて、まず著者のフランス語学習者に対するアプローチに共感しました。従来のフランス語教材は最初から文法事項がぎっしりで、「これを覚えないと先に進めない!」という印象を与えますが、この教材では、最初から苦手意識を与えないように考慮されている点がいいと思います。第一章では、まずフランス語の歴史やフランス語になった外来語について触れられています。私自身、学生時代にフランス語と英語が歴史の中で互いに影響を与え合ってきたということは学びましたが、北欧の言語の影響もうけていたのですね。 私は逆にフランスで日本語を教えた経験もありますが、日本語を教える時に、中国語と日本語の関係(特に漢字について)について必ず簡単に説明します。言語の成り立ちの背景がわかると、学習者はよりやる気を持ってくれるようです。その後に、挨拶、自己紹介、旅行で使うフランス語と続きますが、あまり難しいことは詰め込まずにごく基本的なものだけを押さえています。第一章はさらっと読めて、しかも自己紹介や旅行での会話が複雑な文法事項を習得することなく話せるようになるよう構成されています。 そうしてフランス語のイメージがつかめたら、第二章、第三章としだいに本格的になっていきます。そして各章の後に登場するコラムが楽しいですね。さまざまな立場や職業の人が、フランスについて、フランス人について語っている・・・、いろいろなフランス観が覗えて本当に楽しくなります。 私もフランス生活が長くなり、フランスでの毎日が全て当たり前になってしまっているのですが、このコラムには頷かされ、興味深く読ませていただきました。

(2)冠詞についての解説
フランス語を学ぶにあたってまずクリアしなければならないのが冠詞ですが、フランス語には不定冠詞、定冠詞、部分冠詞といろいろあり、それぞれに男性形、女性形とあるので、覚える量がかなり大きくなります。この教材ではそれらが英語との比較において解説されているので、初心者にとってもイメージがつかみやすいのではないかと思います。さらに、著者の「ここではこれ以上難しいことは言わずに、ちょっと頭に置いておいてください」というスタンスがいいと感じました。 全てを完璧に習得しないと先に進めないというプレッシャーがあったら、楽しい語学学習も辛いだけになってしまいます。冠詞などの文法事項は、まず最初はフランス語を構成する一要素として、概念の輪郭をとらえるだけで十分だと思います。 そして、フランス語が少しずつわかるようになってきたら、もう一度冠詞の箇所に戻って再学習する・・・、そうすると一度目よりも理解が深まります。

(3)第二章第四節の基本動詞の使い方
ここではprendreやfaireの使い方が出てきます。Prendreは辞書を見ていただいてもわかりますが、とにかくたくさんの意味があります。この単語の意味を説明するのは楽ではなかったと記憶していますが、この教材では英語のtakeを使って解説がされており、理解がしやすくなっています。Faireも日本語にすると「する、作る」などの意味の動詞ですが、この教材では、「スポーツをする」、「楽器を弾く」などさまざまな例文が挙げられていてわかりやすいです。

(4)第三章の語彙について
中学や高校の英語でも、大学時代のフランス語のテキストでもそうでしたが、とにかく最初からたくさん単語を覚えさせられました。中学時代は単語テストがあり、単語帳を作って暗記した記憶があります。しかし機械的にどんどん単語を覚えなければいけないのは非常に苦痛でした。この教材は、無理なく単語力を増やしてくれます。日本語になっているフランス語を紹介することでフランス語の単語力を強化する、この方法がいいと感じました。日本人にとって身近なフランス語から習得できれば、苦労することがないですよね。 ディナーやスイーツから芸術やモードまで、あらゆる分野のフランス語が日本語になっていることをこの章は再認識させてくれました。そしてこの章でよいと感じた点は、日本語になったフランス語と、もともとのフランス語の意味やニュアンスの違い「rendez-vous」や「avec」などの単語)も説明されている点です。

(5)第四章「ちょっと本格的な文法」の項
フランス語の「複合過去」には、ふたつの意味がある、という解説がわかりやすいですね。また「半過去」を英語にたとえた説明は、例文や状況説明とともに解説されているので大変理解しやすいです。フランス語の「複合過去」や「半過去」などの文法用語は聞きなれないので難しく考えがちですが、英語の授業で何度も習った英語の文法用語と比較してくれると頭にもすんなり入りますね。

(6)第四章第三節 代名動詞の解説について
フランス語の代名動詞は最初特に難しいと感じた文法事項のひとつです。私がフランス語を教えている時もこの代名動詞は難関でした。外国語学習といえば、自己紹介から始まるのですが、私が最初の授業で「je m’appelle~(私の名前は~です) 」を教えた時の学生たちのぽかんとした顔が今でも忘れられません。 「私は私自身を~と呼ぶ、という構造になっています」と学生に説明したら、「何でそんな面倒くさい言い方するの?もっと簡単な言い方があるでしょ?」といわれました。私は「いやいや、フランス人にとっては面倒くさくないのよ。まあこのまま覚えて」というしかありませんでした。この教材では英語の「-self」を通じてこれを説明していますね。これにはなるほど、と思いました。この代名動詞はフランス語特有のものでも、英語にも似た考えが存在するんですね。

<ミニアルバム紹介>
下の4枚の写真は南フランスのLautrecという村で撮ったものです。画家のトゥールーズ・ロートレックの出身地です。


この村には風車があるのですが[今でも小麦を挽いているんです!]
その風車のある丘の上から撮った村の様子です


マルシェです


村の小道です


骨董品を売っているようなお店でした。自転車が可愛かったので撮ってみました。


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