私がフランス語に出逢ったのは、十代のクラシックバレエのお稽古場です。1、2、3、4… アン ドゥ トロワ キャトル…と、先生は音をとっていました。クラシックバレエの稽古は、バーという棒につかまって、プリエから始まります。プリエとは、フランス語のPlier という、曲げる、折りたたむという動詞です。続いて、デゥミプリエ、グランプリエ。これは、脚の内側の筋肉のストレッチをしていくことです。
私は、“プリエ”といわれれば、反射的にプリエをしていましたが、それがフランス語で“曲げる”という意味とは知りませんでした。バレエ用語がフランス語であり、フランス語の意味がわかれば、そのポーズや動きの方向などまで理解できると気づいたときは唖然としました。そうすると、フランス人はバレエをするのに有利ですね。いくつか例を挙げてみます。
アンサンブレ assembler 集まる(動詞、以下動)
グリッサード glisser 足を滑らす、滑る(動)
ジュッテ jeter 投げる (動)
ロンド ジャンブ の ジャンブは、jambe 脚
ポールド ブラ の ブラ bras は、腕
パ ド シャ pas de chat は、シャは猫の意味。
(5番の前足で踏み切って跳び、空中で両足が膝を曲げて出会い、5番の後ろ足から先に下り、直後踏み切った足がその前に下りる。)
…書ききれませんが、フランス語の辞書をひくと、バレエ用語がかなり解明できます。アメリカ帰りのダンサーの先生もこのフランス語のバレエ用語を普通に使っていました。次に、大学4回生で、第二外国語としてフランス語を選択しました。理系学生だった私は、第二外国語の単位を取るのは必須ではありませんでしたが(むしろ取らないのが普通でした)、折角だからと思い、選択してみることにしました。この授業では、基本会話、文法などの基礎を勉強しました。ただ、4回生という最終学年で、卒論研究、発表の準備などいろいろ重なり、冬の頃になると出席もままなりませんでした。
私は、長年ダンスの類が趣味でいろいろ習ってきました。中でも、私に大きく影響を与えたコンテンポラリーダンスというジャンルがあります。このダンスをするきっかけになったのが、フランス人アーティストたちとの出会いでした。京都では、フランス人アーティストが作品づくりのため長期滞在をしていました。私がコンテンポラリーダンスにはまっていた90年代は、沢山のフランス人アーティストが京都に来ていました。
ちょうど、日仏のダンスプロジェクトがあった時期で、フランス人アーティストのワークショップに参加する機会が沢山ありました。しかし、私の口からフランス語を発することはありませんでした。私に限らず、ほとんどの日本人がダンスに集中するあまりか、それとも日本人の口数の少なさのせいなのか、フランス語は発していませんでした。私はフランス語というよりもフランス人に少し苦手意識を持っていた気がします(ダンスは大好きでしたが…)。
フランス人は、議論やおしゃべりの好きな国民です。ダンスでも芸術論議が要るようでした。フランス人も初めは、フランス語で指導したりするのですが、日本人のあまりの反応のなさに、みな英語がペラペラになっていくのです。日本ではフランス語は理解してもらえないとわかって、英語が彼らの言葉になるようでした。
フランス語に対して、意欲や自覚がでてきたのは、フランスに約一カ月滞在して帰ってきてからです。 フランスに行く前は、さすがの私もテープでフランス語会話を聞きまくり“こういう時は、こう言う”というメモも作りました。結果的には、旅会話はフランス語で、あとは、英語で乗り切ってしまいました。 でも、フランス滞在中に「よくフランス語がわからず来れたね」と言われてしまいましたが…。
日本では、フランス語よりもフランス人が苦手になってしまっていましたが、フランスに行ったおかげで、いじわるそうにみえたフランス人も、普通の人間なんだとわかって、このフランス人に対する苦手意識が克服できました。でもそれからしばらくの間、フランス語は休憩期間に入りました。
ところで、“フランス語は難しい”とよく耳にします。私の母が、何十年も前に、短大の第二外国語でフランス語を選択したところ、何の文法の説明もなく「星の王子様」を訳し出したそうです。しかも、先生がフランスに留学してしまったとかで途中で終わっています。その母は、“フランス語は難しい”と言います。妹に、デザインの専門学校時代にどういうフランス語の勉強方法をとったか尋ねてみました。すると、渡された資料を辞書片手に訳していったそうです。
その妹も、“フランス語は難しい”と言っていました。さすがにそれじゃあ難しいだろう、と思いました。また、以前、英国ロンドンに語学留学中、ホームステイしていた時のことです。ホストファミリーの娘の一人が、週末に遠足(?)でパリにいくと聞きました。そのときフランス語について話していたので、フランス語は難しいかどうか尋ねてみました。すると「フランス語は私たちでさえ難しいの。だから、あなたたちには無理よ。」と言われてしまいました。彼らにも、苦手意識というか、難しいと思わせる言語なのでしょうね。逆に、フランス語が理解できると、一目置かれるということなのでしょう。
私は外国語が好きで、イタリア語やスペイン語をかじったりしました。近年はアラビア語に興味を持ちました。特に、アラビア文字にです。NHKテレビアラビア語講座がありますが、テレビで放送があるのは、一年のうち半年間だけです。ロシア語と交互に放送するようです。アラビア語は勉強する本も少なく、洋書(英語)でアラビア語を勉強できるかなと探してみたりしましたが、なかなか見つけられませんでした。
そこで思い出したのがパリでアラブ人をよく見かけたこと。アラビア語を話す国は、アラブと、以前フランス植民地だったところ、チュニジアや、モロッコなど。アラビア語圏とフランスとの関係はけっこう深いのではないかと思いますが、あるとき、たまたまテレビでフランス語とアラビア語をどちらも使っている国の模様をみました。そんなことがあり、アラビア語に一番近づける言語は、フランス語だと考えたのです。再びフランス語が必要だなと考えていたときに、「松平式フランス語のおぼえ方」に出逢いました。
アラビア語に近づくためには、フランス語は要ると判断した私でしたが、どういう勉強法をとっていったらいいのかなかなか分からずにいました。でも、この教材を勉強して学んだのは、恐れずにフランス語を使っていったらいいのだ、ということ。練習問題を終えた後、松平先生は「間違えても、あまり気にしてはいけません。多少間違えても~」と言われていました。この言葉に尽きると思います。
難しいと言われるフランス語の発音も、この教材にある発音のルールを守って練習していれば、自信が持てるようになるのだと思いました。先生は、フランス語の発音でつまづく人が多いことに考慮して、テキストの最初から無理に、発音!発音!と言わずに、最後まで導いておられます。楽しんでやりなさい、というメッセージが、こめられていると思いました。
この教材で最も良かった点は、テキストの流れの良さだと思います。どういうことかというと、松平先生が、いつも登場していて、付き添われて勉強しているような、私に向かって話してくれているような気がしました。勉強する私とテキストとの距離感が遠くないのです。多くの本や教材は、もっと冷たくつきはなした感じがして、こちらからしっかりと近づいていかないと入り込めないけれど、松平先生から「どうですか?」「わかりますか?」「ついてきていますか?」といつも見てもらっている感じを受けました。複雑になりすぎて、嫌にならないように、「頭がごちゃごちゃしてきた~」というところへ行かせないように、先生の先導によって道案内してくれているようでした。そして、コラムで、先生が休憩時間をとって、私は、お茶飲んでくつろいでいるという感じです。見放されて勉強している感じではないのです。そして、最後にたどりついているのです。
特に印象に残った点について書いてみたいと思います。
(1)まず第一章で、フランス人との会話で絶対使う言葉を紹介されています。
ここに混乱させる要素は全くなく、初めてフランス語を始める方も、松平先生の説明とカタカナ表記を読めば通じると思います。語学の得意な日本人の先生だから説明できる、発音や他の言語との比較が出てきて楽しかったです。フランス語でフランス語を説明した、コミュニケーションの本を海外で買ったことがあります。当然カタカナ表記はありません。この教材の発音のイメージの仕方などのアドバイスは役立ちました。フランス人を相手に会話する前に、一読しておくと助かる内容です。
(2)Êtreの使い方とavoirの使い方
英語の「be動詞」と「have」に相当するもの。この二つの動詞は、なくてはならないものですが、おさえるところはしっかりおさえた説明だと思いました。新しい語学で文法の勉強に入ったときの混乱はなるべく避けて通りたいので、よい感じでした。
(3)aller とvenir の使い分け
日本語だと、「行く」と「来る」ですが、日本語をただ単に仏訳するだけでは混乱するところです。考え方の違いが、シンプルな英語を通して説明されています。松平先生の説明を読むと、フランス語の「行く」と「来る」にあたる、aller と venir の違いが、頭の中で出来上がるのです。よく混乱するこの二つの動詞なのですが、他の書籍ではそれほど注意深く触れられている感じではありません。ここで丁寧に説明してもらって、うやむやだったものが、やっと納得いって、落ちつくところに落ち着いたといった感じでしょうか。
(4)faireとjouer の違い
英語では、play を使って、“楽器を演奏する”も“スポーツをする”も、表現できます。でも仏語では違う動詞を使います。 使う動詞が違うのは知っていましたが、なんとなく覚えていても、どこかで、どうしてかな?と思っていたので、その理由が解説されていた時はうれしかったです。jouerは「勝ち負けがはっきりするような試合をする」という意味のニュアンスが微妙にあるとのこと。理由を教えてもらったので、イメージしやすくなりました。
(5)助動詞
フランス語の関門のひとつに動詞の活用がありますが、「それはこの助動詞を使ってごまかせますよ」とありました。便利な使い方の説明でした。私もこの助動詞は便利だと思っていました。ただ、先生の解説にかかると、うまく使ってみようという気になるのがすごいなと思いました。
(6)フランス語の時制について
①時制の違い
「フランス語で会話をするとき、ほとんど現在形で話せる」という松平先生は、その時制の違いをどう対処するか教えてくれています。近い過去の代用として使える熟語表現も役に立つ説明でした。フランス語を勉強してらっしゃる方はよく知っている表現なのですが、噛み砕いた解説が、とても実用的なのです。また、未来の代用の解説を読んでいて、言葉を鵜呑みにせずに、これからもっとちゃんと考えようと反省しました。
②複合過去の解説
複合過去というものは、何か、複合して過去なのだと頭の中に収めていました。複合過去の作り方は知っていましたが、いまいち意味がわかっていませんでした。実際に、私は漠然と“過去”として使っていました。ただ、何か過去だけじゃないものみたいなイメージは持っていました。教材の解説を読むと、英語に例えた説明が出てきます。確かに、その意味でも使われているかも、と思い当りました。複合過去は、文章が長くなってきたりすると結構厄介なのです。ここにある解説でやっと紐解かれました。今後はこの複合過去と上手に向き合えそうな気がします。
③半過去の説明に感銘!
今までは半過去と聞くと、なんとなく半分の過去みたいに思っていました。つまり、あやふやでした。今までの教材には、<過去における、継続、状態、反復、習慣をあらわす>などとされているものでしたが、分かったような、分からないような気でいました。しかし、松平先生の英語に喩えた解説を読んだ時、“なーんだ、もっとはやく誰か、それを言ってよォ”と駄々こねたくなりました。そして、なぜもっと前に自分でも思いつかなかったのか。今まで、“半ば過去”とか思っていたのが、拍子抜けした思いでした。松平先生のこの説明に感謝だなあ、と思いました。半過去なしでフランス語の文章は読めませんし、半過去は現在形同様とてもよく出てきます。ここで知っといて本当に良かった。
(1)いろいろな語彙の増やし方の提案
教材の中で語彙の増やし方の提案をされています。例えば「日本語になっているフランス語」。日本語になっているフランス語は本当に多いです。先生の出してくれる語彙が楽しかったです。自分でも探してみたりして。 この章は、面白かったです。遊んでいる感覚でした。語彙の数って、仏検など、試験問題には重要ですよね。自分には、いったいいくらの語彙数があるのだろうと眉間に皺になって、教えるのは嫌なものです。しかし、長文を読むには、新聞でも雑誌でも、語彙が足りないせいで、意味がわからなかったりするところも少なくないと感じます。でも、先生の提案のように、もっと気楽に考えて、楽しんでフランス語の活字に触れていけばいいのかも、と考えられるようになりました。
(2)コラム
ちょうどいいタイミングで出てくるコラムが、とってもいいです。いいスパイスになっていて、楽しませてくれます。なかなか、シビアものから、おいしそうな話までありました。みなさん、共通して、情熱家で、夢があって、多才でいらっしゃる。フランスはそういう人を惹きつけるそういう魅力のある国で、文化なのだろうなと思いました。読んでみると本当に面白かったです。フランスに行く前でも、帰国後でも、いい思い出が共有できると思います。
(3)発想
この教材は、先生の発想の仕方が、沢山もりこまれています。これが、私にはいい勉強になりました。いろんな面で、発想の転換に気付かせてもらえました。表面上、なんとなくとらえていたことを、わからせてもらえました。「わかる」というのは、何段階もありますが、文章の構造や、動詞の意味について、表面をさらりと歩いているところから、ニュアンスがわかるというところへ、と深めるヒントを沢山もらえました。
(4)発音
あまりつっこんで説明してしまって生徒に嫌がられたくない、と先生によっては思っていそうなフランス語の発音ですが、松平先生は結構紙面を割いて発音のことを説明されています。「通じる音」としての音の出し方、と書かれていました。通じる発音、鼻母音、Rの発音まで、説明する順番を配慮されていることが受け取れました。
私は、フランス人相手でも、ついつい英語に頼ってしまうので、これは無理にでもフランス語を話す状況を作って試さなければいけないと思いました。フランス語圏に行けば済むことなのですが、そうもいかないのでフランス人のフランス語講座を受けに行こうと決めました。
先日、フランス語体験レッスンという講座がありました。早速予約をとり、レッスンの前日は、松平式教材をいつものように開いて復習しました。いくつもラッキーな状況が重なりました。小規模な国際交流を目的とした施設で開講されているクラスで、私が体験したクラスは、先生と私含めて生徒が二人しかいないため、話す機会が多かったのです。
授業が始まる前、フランス人の先生と挨拶をしました。教材にある、あのカタカナ表記で十分通じます。アン ションテや、ジュマペル~です。相手の名前も聞き出せました。授業では、仏検の勉強をしたことがあるのも幸いして語彙がわかったので、ずっと続いている途中のクラスに放り込まれても、テキストは何とか読めました。前半は、近況や新しいニュースの話題を出させて、生徒の口からフランス語が出るように誘導していました。この時、私は現在形しか使ってないなと思いました。後々、複合過去も使いましたが、完了していることなので、現在完了という意味のものと、過去という意味のものを、念頭に置きながら。
授業の終わり頃、「tu reviens?」と尋ねられました。ほんのちょっと、間がありましたが、私はRの発音をしっかり聞きとりました。“Rだ、Rだ”と心の中で思っていました。 松平式の教材に、Rの説明がされています。ちゃんと実地で、唐突に言われて聞き取れたことに、内心とても喜びました。落ち着いてちゃんと聞けば、Rにうろたえなくてもいけると思ったのでした。帰りに、私が“Au revoir!” と言うと“Au revoir!”と返ってきました。思えば私は、Rの発音をしないといけない単語を避けていました。ボン ジュネ とか、ア ビアントとかを使い、Rのできるだけ目立たないものを選んでいました。どうやら、Rへの壁を克服できそうだなと思っています。お陰さまで、私のフランス語レッスン体験はとても楽しくできました。もちろん、課題は、山ほどあります。先生に、「君は、英語と混ぜて話すことが多い」と言われました。
しかし、教材のP 15に「Speakez-vous Franglais?」と雑誌TIMEの記事の話があります。「英語を思い出せない時には、英語を混ぜて」とありますが、これも上達のための手段と思っています。語学の上達のためには、こわがらず使って、基本知識の復習を欠かさず、とよくいわれます。難しいことをしていくにも、基本にあることの上にのっかっているのだと、肝に銘じて、楽しく続けていければいいなと思いました。
それから、仏検は3級と2級の間には大きな溝があると思っていましたが、近年準2級が開設されたので、これを機に準2級に向けて勉強するのもいいなと思いました。挑戦しようという意欲がじわじわ出てきました。それが、松平式フランス語を勉強する前と勉強した後との大きな差でしょうか。楽しいという感覚はとても大事で、楽しめれば好きになってきます。できるだけ楽しめるような素材を見つけ、勉強を続けていければいいなと感じます。
語学は、とにかく長く続けることで、後々もっと大きい楽しみが来ると信じています。これからは「使う楽しみ、通じる楽しみ」を忘れないようにします。フランス語の勉強を好きにさせてくれる教材に出逢えたことは、とても幸せなことだと思いました。Merci beaucoup!